心を動かすセックス


 

天才的な噺家(はなしか)が述懐している

 

「話はだれでもできる、だれでもできるから研究しない、だれでもできるからじつはたいへん難しい」

 

私は感銘をうけた、海外の先生たちも同じことを語るからだ

 

「歩くことはだれでもできる、だれでもできるから深く考えない、だから、とてもむずかしい」

 

「呼吸はだれでもしている、だれでもしているから深くは考えない、だから、とてもむずかしい」

 

「考えることはだれでもできる、だれでもできるから深く考えない、だから、とてもむずかしい」

 

 すぐれた先生たちさえ悩ませる大難問が、セックスだ

 

「セックスはだれでもする、だれもが深く考えないでしている、だから、どうすればよいのか、ものすごくむずかしい」

 

 

 

先生たちは、ただでさえ広大な領地と財源をうけつぐ名門の出

 

深窓の令嬢と政略結婚する一方で、公然と愛人を許されている

 

正妻とは義理関係だから愛人とのセックスが性生活を決定する

 

先生たちは情熱こめて、セックスの奥義をさがしもとめてきた

 

莫大な金品や有能さだけでは、入れないセックスの学校がある

 

幾世代も門前払いされた先生たちは卒業生の行方を追いかけた

 

学校でまなんだ男が日本で医師をしているらしいと噂が流れた

 

それならなおのこと好都合であると私をゲストに招聘してきた

 

 

 

世間をふつうに歩きまわっているだけで、私はめだってしまう

 

私の同窓生は、みな気が狂うか死ぬか、いまも山にこもりきり

 

私はヒマラヤで人類最高峰のセックス・ヨーガをまなんでいる

 

しかも、何とか無事に世間にもどってきた唯一の人間でもある

 

師匠は、厳格にセックスをつたえよ、というと世界から消えた

 

自分のたいせつなパートナーとむすばれて、医師を天職にする

 

医師としての診断能力が自分でも信じられぬほど成長をとげる

 

すべての才能をいかして生きる力を、自家薬籠中のものにする

 

 

 

先生たちは真剣そのもの、そうであればむげに断ることもない

 

たったひとつだけ質問を受けつける、と師にならって表明する

 

異口同音に、自分と女性のセックスを育てる要訣を問うてくる

 

私が言下に答えると、みんなすぐ納得しがたいという顔をする

 

若く美しい、その道では百戦錬磨で知られる女性があらわれる

 

男の扱いにかけては自信に満ちた女ほど手をひねりやすいもの

 

女の予想はみごとに裏切られ、思いもせぬ手でただよわされる

 

指一本ふれず、言葉もかわさず、身体の中心を雷鳴がつらぬく

 

目が上をむくと、女の息がつまって、唇が必死に酸素を求める

 

息をこらして見つめていても、先生たちには何が見えていたか

 

究極の技術は、枝葉でなく根源を見なくては、理解はできない

 

私にできることならば、本来だれでもできる能力のはずなのだ

 

人間が生来もちあわせている自然な能力を発揮すればよいのだ

 

自分とパートナーの人生を賭けて全身全霊をささげつくすのだ

 

 

注釈

この文章は、夢幻と現実の境界がさだかならぬ情景を、

若いころのわたし自身が記したものである。

夢幻に感じられる文章のようでいて、現実を記している。

 

現実が現実度を増すと「超現実的」になることがある。

それを「シュールレアリスム」とよぶ人もある。

わたしはこの現実を生きている人間である、ともいえる。