I 「がんになる」「がんを治す」では、どちらが難しい?


私はがんになったことはありませんが、重い精神病にかかったことはあります。精神病に「なる」のと「治す」のでは、「治す」方がより簡単だと思いました。重い精神病を独力で治してから医師となった私はがんも同じだと考えています。がんに「なる」のと「治す」のでは、「治す」方がよほど簡単だと思うのです。がんを本当に治すには視点を180度きりかえて、「どうしたらがんになれるのか」考えてみるとよいでしょう。「がんになる」ことはとても難しいことです。

 

PETという放射線検査があります。正式には「陽電子放射断層撮影」(Positron Emission Tomography)といい、がんの早期診断に使われています。放射性物質の18F-FDG(フルオロ・テオキシグルコース)をがんに送りこむので、18F-FDGが集積する部位にがんが存在することがわかるという診断技術です。18F-FDGは1つの水酸基を放射性のフッ素(18F)に置換したブドウ糖(グルコース)です。がん細胞は①低酸素環境下で解糖系が活性化する悪性のがん細胞になるほどGLUT(グルコーストランスポーター)が過剰に出現するなどの特徴をもち、ブドウ糖を最大の栄養源とするので、真っ先に18F-FDGを取りこむのです。がん細胞は正常細胞の3〜8倍のブドウ糖をとりこんで栄養にするため、育つためにはありあまるブドウ糖が必要だし、ブドウ糖が不足する環境ではとても育ちません。

 

がん細胞の生理学をふまえて、がんを治すことができるでしょうか? 

 

18F-FDGの水酸基を放射性フッ素(18F)のかわりに水素(H)で置きかえたデオキシグルコースを送りこめば、がん細胞の解糖系を阻害するでしょう。がん細胞の活動を抑えるデオキシグルコースが抗がん剤になるというアイディアは悪くはありませんが、厖大な開発費をつかって面倒なことを考える必要もありません。がんを治すには、単糖類のブドウ糖(グルコース)へ消化される糖質を制限しさえすればよいのです。糖質は三大栄養素(糖質・タンパク質・脂質)の一角を占めます。糖質を抑える分だけ最適なタンパク質と脂質を補えばよいのでしょう。きわめて簡単な栄養学の問題です。人間に最適な栄養バランスをととのえれば、がん細胞は育つどころか生きぬけなくなるし、ダイエットに成功するし、身体はかるくなり、頭は冴えて、心はおちつき、疲れ知らずになります。健康な心身に近づくほどがんになるのは難しくなるでしょう。がんを治すのは簡単、がんになるのはとても難しい。それが健康な人間の姿です。がんを治すコツはいくつもありますが、日常生活では食事を根本的に見直すことが最重要かつ最善の道です。

 

がんを治すだけでなく、肥満を解消してダイエットに成功し、糖尿病や高血圧やうつ病や腰痛や膝痛や運動不足にもよく効く、この食事療法は必ずじゅうぶんな学識と経験をそなえた医師の指導のもとでおこなってください。この栄養学的な食事療法を実践して熟知した医師でなければ、危険が伴います。テレビやネットで広告されている健康食品やサプリメントなどは、この食事療法にくらべると実効性がないか有害にすらなるでしょう。食事療法に精通して指導管理できる医師は多くはいませんが、うまくすれば安全に健康を回復できる治療法ですので、根気よく探してみてください。

 

かつて、私の上級医師が激怒して苦情をもちこんできたことがあります。「先生が患者にがんは治せるというから、私は思いきり迷惑している。他の先生方もそうだ。だいたい、治らないがんを治せるなんて詐欺師が言うことだ。詐欺で希望をもたされる患者が不幸になると思わないのか。それに、がんが治らなくて苦しんでいるのは患者だけじゃない。がんを治せない医師だってつらいんだ。君はそんな人たちのことをまったく考えていない。いいか、またそんなことを言いふらしたら、私はただじゃおかないぞ!」とても勇ましい医師ですが、その信念を持つ必要があるのでしょうか。私はバカらしくて反論する気になれませんでした。治らないがん患者や、がんを治せない医師に同情しろ、ですって。そんなことに気を遣うくらいなら、「治せる病気はさっさと治しましょう、病気をきっかけにしてよりよい生活を再建していきましょう」とさらに伝えようと思いましたね。私も、すべてのがんが治せないことはよくわかっています。なにしろ、末期がん患者をたくさん診る在宅診療医をしているのです。手おくれのがん患者に日々接しています。治らないがん患者にむかって「治りますよ!」とは言えません。それに、現代医学のあり方が患者を救う治療法をもちいることを許さないのです。がん末期になる前の段階で出逢っていれば、何とかできたのではないかとよく考えるのです。そのうち現代日本人の3人に2人ががんになり、2人に1人ががんのために亡くなるようになります。そんな現実はどう考えてもおかしいのです。それほど多くの人ががんで苦しみ傷つき、亡くなり、経済的に苦しくなり、遺された家族がながく苦しむ、という現状を追認したり肯定する気にはなれません。人間が努力できるだけのことをした結果、そうなるというのなら、私も納得しますが、すべきことをしないまま、打ちひしがれる人々ばかりが増える現実を私は受けいれられないのです。そう語る私は日本の医療社会の秩序を脅かす反体制派のように見なされて非難されています。じつは、私にも言い分はあるのですよ。医学以外の学問を大いに学び「人生の意味」と「生死の本質」と「人のこころ」と「心身一如」と「養生と健康」についてセンスや経験をやしなえば、がんは治らないと本気で言いきることができるのか、と。日本が幸福度において世界51位になってしまうのはやむをえないことなのかもしれませんね(Dr. Shikoh)